令和2年度 熊本県養護教諭夏季研修会
1 はじめに
今年は、新型コロナウイルス感染拡大防止のためオンラインでの研修会を企画した。現代は予測困難で変化が著しい社会だからこそ、それらに対応できる児童生徒の育成が求められている。新学習指導要領においてはそれらに対応した教育の方向性が示されており、これからの教育について自らが考え、学び合う機会を、ICTを活用してオンライン上で設定した。
2 研修テーマ
「新しい学習指導要領の方向性を考える」
講師 熊本大学教育学部大学院 教育学研究科 准教授 前田 康裕 氏
3 研修会の内容
(1) 期 日 令和2年8月11日(火)
(2) 会 場 Zoomでのリモート研修会
(3) 参加申込者 86人
(4) 日 程
9:00~9:10 開会行事 9:10~9:40 講義(レクチャー)
9:40~10:20 グループワーク 10:30~11:10 グループごとの発表
11:10~ 11:45 まとめ(レクチャー) 11:45~12:00 閉会行事・諸連絡
<リモート講義中の様子:講師の前田先生>
4 講義
< ブレイクアウト①>「学ぶ」と「習う」の違いとは
(*ブレイクアウトとは参加者をグループ分けすること。今回は4~5人のグループで話し合い、そのあと全体で意見を共有した。)
「習う」とは元々ある物を習得することであり、「学ぶ」とは、生き方や失敗から学ぶというように何かに気づき、自分が変わることである。何からでも学べるので学ぶ力を持つことが大切であるとまとめられた。
(1)変化する社会と資質・能力
<予測困難で変化が著しい社会>
・新たなウイルスの脅威(新型コロナウイルス感染症など)
・未来は無人化される産業へ(「仕事の未来(動画)」)
・経済(貧富の格差の広がり)、環境(汚染と気候変動)、社会(紛争の増大と難民の急増)
・生産年齢人口の減少と老年人口の増加 (2036年は3人に1人が高齢者)、地方で
人口減少
・ネット上での市場を作る企業の進出(GAFA:グーグル・アップル・フェイスブック
アマゾンなどプラットフォームビジネスと呼ばれる工場を持たず低コストの企業)
・世界経済の大変化(日本は工業国家として昭和終わりから平成初期まで成長したが、情報
産業で取り残され、アメリカや人口の多い中国などのGDPが伸び、企業の優位性に入れ
替わりが起きた。)
<ブレイクアウト②>予測不可能な時代、変化の激しい社会において求められる人間像とは
柔軟性、しなやかさ、情報活用能力、確固たる自分、対応力、応用力、コミュニケーション力、プレゼン力、協働する力、組織力、自分は何がやれるか考えられる力等の意見が出された。
<学習指導要領改定の方向性>
①社会に開かれた教育課程
よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を共有し、社会と連携協働しながら未来の創り手となるために必要な資質、能力を育む学校教育の実現を図るものである。すなわち、社会に出てからも学校で学んだことが生かせるよう各学校でカリキュラム・マネジメントを実現する。
②育成を目指す資質・能力
育成を目指す資質・能力を明確化し、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性の涵養」の三つの柱で構成されている。学びに向かう力とは社会が変わっても柔軟に自分を変化させて学んでいこうとする力である。
③新しい時代に必要となる資質能力を踏まえた教科・科目の新設や目標、内容の見直し(プログラミング教育など)
④「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善
アクティブラーニングは授業の目的ではなく方法であり、授業の改善を図る。
⑤「学習評価」・・資質能力を伸ばすために褒める、可視化するなどとても重要である。
⑥「認知的スキル」(知識、思考、経験を獲得する心的能力:高度な計算、情報の読み取り、統計的なデータの裏付けの考察など)・・・テクノロジーが発達すると必要とされるスキル。テストで測れるものである。
⑦「社会情動的スキル」・・・目標達成(粘り強さ、目標への情熱、しなやかさの部分)、感情のコントロール(自尊心、楽観性、自信)、他者との協働(社交性、敬意、思いやり)などのスキル。
例:「知識は専門化して初めて有効になる。ということは、知識労働者は組織と関わりを持たざるをえないことを意味する。(ドラッカー)」・・・みんなでやれる人、コミュニケーション力の高い人など、一緒に仕事をやるときに求められる人間性を考えて教育をしていくことが大切である。
⑧コンテンツベースの学習(領域固有の内容中心)に、コンピテンシーベースの学習(資質・能力、学習に向かう力、問題解決力などの学習)を加えていく。
⑨教科横断的な視点に基づき育成する
各教科の学力をつけることだけでなく、各教科を関連づけて言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を育成する。
(2)求められる教育のあり方
①GIGAスクール構想:1人1台の端末が全国の学校現場に入ってくる。
②オンライン授業から学ぶ・・オンライン授業が実現しても、教師が教えるタイプや、教え
てもらう学習、課題をこなす学習だったら、子どもはずっと聞いている学習になりがちで
ある。それに対し、オンライン学習をうまくやっている教師は、自律的な学習(自分で計
画・実行・振り返りを休校中にさせる)や、探究的・創造的学習(動画・プレゼン・ムー
ビー)をさせている。つまり、教師の教育観の差(教師が教える教育、児童生徒が自分で
学ぶ教育)が露骨にでてしまう。
③教育方法の改善
できる子だけが活躍する授業や教師が内容を伝える授業では、必要とされる資質や能力は育たな い。主体的・対話的で深い学びをする授業改善が求められている。
21世紀のICT学習環境調査(2010年OECD)では、ICTを利用すれば数学の読解力や得点は上がるのかという質問に対し、答えは弱いか、時には負の関連性しかないことを示している。すなわちICTを使っても成績は上がらないという結果である。子どもが考えないような学習スタイルでは子ども達の学力を伸ばすことはできない。つまり、先生が教えるという教育観のままタブレットを使ってもうまくいかないため、教育観を変えていくことが必要である。
学習者が学び合って、めあてをもって必要性のある課題の解決をする(例:ただ新聞を作るのではなく、うちの人に学校の先生のことがわかるように新聞をつくろうなど)と、子ども達は自分たちで色々なことを話し合いアウトプットしながら、他者を尊重して対話的な授業で知識・技能を身に付けたり、思考力・判断力・表現力を身に付けたり、相手の意見を尊重する力が付き、学びに向かう人間性の涵養ができる。その場合、教師の役割として、ただそれを傍観するのでなく、きちんと振り返りの場を設け、子ども達が自ら学ん でいくことが大切である。授業を行う上で、タブレットを使うことが目的ではなく、色々な場面で有効的に使い(インターネットで情報収取、タブレットを使って考えを書いたり、文字の色を変えて書いたりする表現力、振り返りを書く、プレゼンで使うなど)根本から学習過程を変えるべきである。
(3)課題の発見と解決
<ブレイクアウト③協働解決>
新しい教育を実現するにはどのような課題が考えられるか
出てきた意見をもとに以下の4点にまとめられた。
①大人のスキルの向上(校内研修、ICT支援員の活用、学校のサポート体制など)
②新しいことをとりいれる研修(研修会に参加する、他校の実践に学ぶなど)
③学校の多忙化の解消(アンケート機能などのアプリの活用など)
④養護教諭の研修時間の確保(養護教諭部会のグループチャット、LINEなどでつながる)
(4)振り返り
①振り返りの視点
・ICTスキルの向上では、どんなことを学んだか(学習内容)
・自分たちのグループの良かった点・改善すべき点は(学習方法)
・それぞれのメンバーの良さは(人間性の涵養)
*振り返り(リフレクション:鏡・反射する)とは・・自分を客観視して学習内容や学習方法を見つめ直すこと。それを形成的評価し、褒めていく。振り返りによる学びの言語化と資質能力が高まるように評価する。
②評価の視点(前田版)
・自らの気づきを明確にしている記述
・自らの伸びや課題を実感している記述
・他の経験や学習と結びつけた記述
・友達からの学びを意識した記述
・未来の創り手に必要となる資質・能力「Agency(エージェンシー)」:自ら考え、主体的に行動し、多様な人々と協働しながら持続可能な社会へと責任をもって変革していく力である。どうしても我々は、目の前のことに一生懸命になり、周りが見えなくなる。もっと先のことを見据え、広い視野を持つ必要がある。未来の創り手を担う子どもに必要な資質・能力を意識していくこと、色々な社会的な課題を人ごとにしないで、自分には何ができるか考えることが大切である。
・「Teacher Agency」:新しい社会に向けた新しい教育の創造(ICTの得意不得意を生かしてみんなでやっていく。課題を解決するために使っていき、スキルを高めるなど)
5 参加者の声(アンケート結果から)
〇新学習指導要領の内容以前に、その変革の背景を学んだとともに、衝撃的なビデオに映った未来に子どもたちを送り込む私達の責任の重大さを痛感した。広い視野で世界を見て、日々の執務を地道にやっていきたい。同僚にも聞いてほしい講義だった。
〇予測不能な激動社会を生き抜く力を付けるには私たち教師がどうあるべきか、という教育の本質とも呼べる部分を学ぶことができた。
〇一方向から受動的に講義を聞くリモート研修でなく、双方向からやり取りし、グループワークの協働作業で学び合う主体的な研修の形に驚き、今後の研修の可能性の広がりを感じた。Zoomの多くの活用方法も学べた。
〇初のリモートでのグループワークに挑戦し、操作に不慣れで不安だったが、やりながら覚え、他地区の先生方とも顔を見て意見交換が活発にでき、有意義で楽しい研修だった。
6 おわりに
今回の研修は新学習指導要領の方向性について、そこに至るまでの背景に触れ、変動が激しい社会だからこそ、子どもたちに身に付けさせたい力やそのための効果的な教育方法について主体的に考えながら学ぶことができた。この研修スタイルこそ、教え込みではないアクティブラーニングであり、今から求められるICTを上手に活用した新しい学びのスタイルだと思う。コロナ禍でさまざまな研修が自粛でなくなっている中、このような形で養護教諭同士がつながって情報を共有し、学び合うことができるリモート研修は大変有意義であり、実施できたことに講師の前田先生には深く感謝申し上げたい。ICTの環境に地域格差があり、無線LANやWEBカメラ、マイクの備わったパソコンがない地域があった。九州豪雨災害等に見舞われて参加出来なかった会員もいた。今回のまとめを参考に執務に生かしていただけたら幸いである。今回Zoomの活用法も学び、これからの研修会のあり方の広がりや進化も期待できるものと思う。受け身ではなく、参加型であったため記憶に残りやすく、とても充実した研修であった。
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